長谷川香料にはざまざまな研究員がいる。
製品の開発や新しい分野の発見は、 何気ない普段の生活やふとしたところから始まり、
すべて身の回りの誰かを幸せにしたいという研究員の思いが原動力となる。
今日も日々、研究員はあなたの生活を豊かにするために試行錯誤を繰り返している。

まずは自己紹介をお願いいたします。

長谷川香料フレグランス研究所の越知です。
出身は東京、農学系の大学を卒業し、長谷川香料に入社しました。当初配属されたのは「セイボリー(塩味のする加工食品の総称)向けのフレーバーを開発する部署でした。しばらくして、研究所移転と共に、研究管理部という部署で設備メンテナンスの業務を行なっていました。経緯については後述しますが、2017年からフレグランス研究所でNANOLYS®の開発に従事しています。

フレグランス研究所 越知

自分自身の肌を改善したい想いで開発が始まったと伺いました。
越知さんとスキンケアの出会いはいつだったのですか?

スキンケアとの出会いは姉の一言でした。
小さい頃から肌が弱く、いわゆる敏感肌だったため、肌が荒れていて「痛み」がある状態が当たり前の人生でした。就職が決まった大学4年生のある時、姉から「あまりにも顔がボロボロで酷いので、会社に行くなら何か塗った方が良いよ」と言われ、勧められるまま化粧水と乳液を塗るようになりましたが、ベタつき、ヒリヒリする刺激などあまり心地よいものではありませんでした。
その後いくつもスキンケア製品を試し、「痛くない」商品を探すなか、自分はべたつきのない化粧水が好みであることと、リポソームを使用した化粧品であれば刺激が少なく、肌に合う事が分かってきました。そして使い続けるうちにようやく「 『肌が落ち着く』とはこういうことか!」と自らの肌状態を自覚できるようになりました。今までは何を使っても日中の乾燥を抑えきれず「痛い」「ベタベタする」「痒い」等の不快感を感じていた私にとっては、この発見が大きな転機のひとつだったと思います。すっかりリポソームの虜になりました。

自宅でNANOLYS®の基礎を開発したと伺いました。
なぜご自宅で化粧品を作ろうと思ったのでしょうか?

端的に言えば、リポソーム化粧品が高かったからです。リポソームはご存知の通り医薬品向けに開発された技術が基になっていることから、極めて難易度の高い化粧品技術のひとつであり、化粧品の中でも高価格帯の商品に使用されるもの。自分が購入し続けるのはやはり無理があります。そんな中、巷では手作り化粧品というものが流行っていることを知りました。調べてみると、通販で色々な材料が売られており、それらを組み合わせることで自分好みの化粧品を簡単に作れるらしく、リポソームのような感触を得られる素材すらもあるようでした。「もしかしたら刺激の少ない化粧水を自分で作れるかもしれない。」と興味本位で取り組み始めました。手作りで化粧品を作るという体験を通して、自分自身に刺激のある成分を使わずに、「べたつき」が少ないように感触を調整したり、有名な有効成分が本当に効くのか試したり、様々なチャレンジができるんだという大きな発見がありました。最初のうちは、色々な通販サイトで素材を買い込んでは様々な組合せを楽しんでいるだけでしたが、そのうちにリポソームの素となる「水添レシチン」や「コレステロール」なども入手できるようになりました。「これなら、完全に一からリポソーム化粧水が作れるかもしれない!」糸口が見えると、モチベーションが上がり、本格的にリポソーム化粧水を自分で自分のために作ってみようという気持ちがふつふつと湧いてくるようになりました。それからというもの、通販で化粧品原料を集め、週末の1日は朝から晩まで化粧品を作るという試行錯誤の日々が続きました。

リポソームは「医薬品向けに開発された、極めて難易度の高い技術」と
おっしゃっていましたが、それを自宅で作ろうとしたのですか?

素人は怖いですね。できると信じて取り組んでいました。もちろんはじめは全くうまくいきませんでした。そもそも素材が溶けない。溶けたように見えてもすぐに濁ったり沈殿物が発生したり、何度繰り返しても、まともなリポソーム化粧水になりませんでした。
そこで、会社の蔵書(化粧品関連の業界紙や技術書など)を熟読し、ネット上に公開されている情報を読み漁り、有給休暇を取って自腹で展示会に参加しながら化粧品技術、とりわけリポソーム技術について学び続けました。色々と情報を仕入れていくうちに、業界常識として「リポソームは超高圧乳化機を用いて製造するもので、自宅で作れるような簡単な代物ではない」との認識が通説であることを理解しましたが、私自身はいわゆる素人。そんな業界の常識はどこ吹く風で毎週末の開発が楽しくて仕方ありませんでした。そんな中、ひょんなことからブレイクスルーがあり、NANOLYS®の原型となるリポソームの素(プレリポソーム)と、それを基にしたリポソーム化粧水の開発に成功しました。